
高い信頼性と安定性を誇る製品で災害発生時に一つでも多くの命を救いたい

阪田邦雄
株式会社エス・アイ・シー 代表取締役阪田邦雄(さかた くにお)
1971年、大阪電子専門学校電子工学科卒。同年、伊勢電子工業入社、1976年、進栄電子に転職。2005年に同社を退社ののち、2010年から三愛物産にて地震解錠システムの研究開発に携わる。2011年1月、地震解錠ボックス販売開始。2013年7月、エス・アイ・シーを設立、代表取締役に就任。
株式会社エス・アイ・シー
〒515-2317 三重県松阪市嬉野野田町26-11
TEL:0598-31-1860
ひょんなことから関わり始めた、新しい製品開発

私は学生時代から電気・電子工学を専門にし、卒業後は電子・電機業界に入り、進栄電子という会社に30年近く勤めてきました。まさに「電気ひとすじ、製造ひとすじ」です。
進栄電子は、かつての松下電工、その後のパナソニック電工の協力工場でした。あくまで下請けとしての製造でしたが、ここで松下流のもの作りというものを、徹底的に学ばせてもらいました。このことは、その後の私にとって大きな財産になったと思っています。
進栄電子を退職した後は特に何をするでもなく、ノンビリしていました。そんなとき、三愛物産の三重営業所に勤めていた知り合いから「時間があるなら手伝ってくれへんか」と声をかけられたんです。彼は新しい商品開発に取り組んでいたのですが「一人では無理や」と。そこで私が関わり始めたのが、地震解錠ボックスの開発です。
非常時のニーズに応える「地震解錠ボックス」

地震解錠ボックスというのは、文字通り「地震を検知するとロックが解除される、小型の収納ボックス」です。
全国の市区町村にはそれぞれに、万一の災害時に備えた「防災倉庫」というものがあります。ですがこれらの倉庫は盗難防止のため、ふだんは常に施錠されています。ですが、いざ大地震が起こったときに、すぐに鍵を開けられるとは限りません。そこで「地震を検知したら、自動的にロックを解除する仕組みがあれば便利だ」というところから、この製品の開発が始まりました。
当初は、淀川製鋼さんの市販物置「ヨド物置」に取り付ける前提で開発していました。ですがこのやり方では、ヨド物置が売れないことには、われわれの製品も売れません。それに、小型倉庫以外のニーズのほうが大きいのではないか、という予測もありました。
たとえば、災害時避難場所に指定されている公立学校や公的施設、体育館や会議室は、ふだんは施錠されていますが、災害時に速やかに解錠できれば、いち早く避難所として活用できます。ですからそうした施設の鍵を小さなキーボックスにまとめておき、それに地震解錠装置を取り付ければ、より多くのニーズに応えられる、と考えたわけです。
非常時の備えだからこそ、高い信頼性が必須

最初に取り付けていただいたのは、三重県内の水道施設でした。震災のときにライフラインが分断されるとまずいということで、そこに設置させていただいたのが記念すべき第1号です。その後、市内の8か所ほどに広がっていきました。
そうなると少しずつ、競合製品も出てきます。あの大震災の後ですから、日本中で防災意識が高まっていた…ということもあるでしょう。ですがそれらの製品を見てみると、機能や性能という以前に、モノとしての作り方がまったく違うんです。私は「松下のモノ作り」を徹底して叩き込まれたクチですから、製品については信頼性を第一としています。
まず災害時の停電に備えて、電源は使わず、センサー部分は完全機械式としています。定期的な交換が必要な、電池も使いません。また解錠される設定震度をあらかじめ設定できるようにし、それも指定の震度で確実に解錠できるかどうか、専用の測定器でチェックした上で、検査結果を製品に添付して出荷しています。交通事故でセンサー部分に車が衝突したりすれば別ですが、そうした例外を除いて誤作動が一切起こらないよう設計しています。
地震解錠ボックスは緊急時にのみ作動するものですから、こうした高い信頼性と安定性は不可欠だと考えています。
目の前の「救える命」を救うために

弊社のお客様はその多くが各地の自治体で、自治体への納入となると、多くの場合「入札」によります。競合は多くはありませんが、入札となると価格が勝負になってしまいます。極端な話、入札で1円でも安ければそちらが通る。信頼性や安定性、機能性や実績などが、必ずしも評価されるとは限りません。その意味で、トンビに油揚げをさらわれるような、苦い経験も少なからずありました。
ですが弊社の製品は、2025年春の時点で、全国で2000台の納入実績があります。47都道府県でいえば、37都道府県にも上りますから、すでに全国区で認知されている、と考えて良いでしょう。さらに全国の津々浦々にまで広がっていけば、たとえ災害に見舞われても、より多くの命を守ることにつながるはずです。
地震のような大規模災害では、すぐに救助の手が届くとは限りません。潰れた家屋に人が取り残されていたなら、その場にいる人が、そこにある道具を使って、救出するしかありません。それができなかったがために、阪神淡路大震災では多くの命が失われました。ですがそこにバールひとつ、ロープ一本あれば、救える命があるのです。そのために私は、もっとこの製品を世に広めたいと思っています。
「こんなものが欲しい」という声に応える製品作り
弊社では主力製品である地震解錠ボックスに加えて、いくつかのバリエーション製品を製造・販売しています。開発の出発点となった地震解錠物置がそうですし、ソーラーパネルを取り付け、地震発生時にはボックスの解錠とともに誘導灯を点灯させて人目をひく、というものもあります。最近では、ダイヤルハンドル式の4桁の暗証番号を合わせて開けられるタイプの商品も開発しました。開発当初の製品と比べると、かなり品質も向上しています。これらの製品はいずれも、お客様の「こういうものが欲しい」という声に応えて形にしてきた結果です。
ちょっと変わったものでは、地震を感知して解錠できるカンヌキ錠というものがあります。学校や施設、駐車場の入口などの門扉に取り付けられるカンヌキは、通常時は南京錠で施錠されていることが多いものです。ですが避難所、あるいは水道施設や電気施設などでは、災害時にすぐに解錠できれば、その後の避難や点検・復旧作業が容易です。そこで開発したのが、この製品です。三重県内の施設に設置したところ評判を呼び、他県からもリクエストをいただくようになりました。
こうした「お客様の声を反映したモノ作り」は、弊社の独自性であり、また強みだろうと思います。
防災設備以上に重要な、個々人の防災意識

実は今、地震検知機能と防災無線を併用した解錠システムの製品開発を進めています。これは新しい試みで、すでに特許も取得できました。あとは製品化するばかりなのですが、これがなかなか簡単にはいかず、少々手こずっています。私たちモノ作りの人間の常で、納得のいく製品に仕上げるまでには時間とお金がかかり、苦労も絶えません。ですが「それが楽しい」という面もあります。まだ少し時間はかかりますが、遠からず新たな防災設備として、世に出せると思っています。
ただ、これらのアイテムが世の中に広がり、自治体が周到に用意をしていても、いざという時に重要なのは個々人の防災意識です。いつ何どき、何が起こるか分からない。そうした万一の事態に備えた心構えが、自分自身はもとより、大切な家族や周囲の人々を救うことにつながるのではないでしょうか。
若者にはまず、世の中の仕組みを知ってほしい

さすがに私も結構な歳ですから、今の若い人たちが何を考えているのか、正直、よく分かりません。話に聞くと、新卒で就職してもすぐに辞めてしまう人が増えているとか…。もちろんそこには、その人なりの事情や考えがあるのでしょう。ですがあえて言うなら、一度社会に出たなら、社会や仕事の仕組みを知り、その中で自分がどのような役割を担っているのか、それを知ってから動いても良かろうとは思います。
私は製造畑ひとすじで生きてきましたが、それができたのは、私が作った物を売ってくれる人たちがいて、買って使ってくれる人たちがいたからです。製造が頑張っても、販売が弱ければ売れません。また製造と販売が強くても、ニーズに合っていなければ、やはり売れません。こうした社会構造をまず理解すること。これから社会に出て行く若い人たちには、そのことをしっかり覚えておいていただきたいですね。
株式会社エス・アイ・シー
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